2019年5月29日水曜日

工場へ戻せ!兵庫県労働委員会の救済命令を生かそう!

弁護士 村田浩治

1 事件の概要

 東リ伊丹工場において、東リの主力製品である巾木(床と壁の境界に必ず使用される建築資材)の製造に従事していた下請け会社ライフイズアート(以下「ライフ社」という)の社員は、同社代表者の度重なるパワハラに対抗すべく2015年に連合兵庫ユニオンL.I.A労働組合を結成した。組合は学習する中で、20年以上にわたる偽装請負状態を解消し、東リの雇用責任を追及する方針を打ち出した。2017年3月に組合員のうち執行部を中心に一部有志が先行して、東リに対して労働者派遣法40条の6に基づく直接雇用を求め、組合として団体交渉を申し入れていた。

 折しも東リは、ライフ社代表者によるパワハラや団交拒否の不当労働行為が繰り返されている中で、この下請けに見切りをつけ、新たな派遣事業者であるシグマテックへ切り替え、同社にライフ社社員を移籍させる方針をとろうとした。この移籍の過程で、シグマテックが直用を求めていた組合員だけを採用拒否するという事件が起きたのである。16名いた組合員のうち11名が採用通知一日前に一斉に組合を脱退していた。組合は、2017年6月1日付で兵庫県労働委員会にシグマテックによる採用拒否は不利益取扱であり、東リが直用の団交に応じなかったのは団交拒否の不当労働行為であるとして救済を求めた。

 兵庫県労働委員会は2019年4月26日付でシグマテックに対して組合員らの職場復帰による救済を命令した。

2 兵庫県労働委員会の命令内容

(1)当事者にとって切実な職場復帰を勝ち取る

ア、シグマテックの使用者性

 命令は、シグマテックと組合員の間で面接時にすでに労働契約関係が成立していたとする主張を退け、シグマテックと組合員らの間で労働契約関係はないとした。しかし、不当労働行為制度の目的に照らすと、労働契約上の使用者以外でも「近い将来」労働契約関係が現実的かつ具体的に成立する者も使用者に含まれるという基準を示し、シグマテックが東リから従業員を引き継ぐ前提で全員と面接していたこと、面接時、他に従業員募集をしていなかったこと、面接時、組合員の「入院時の給与補償」「不採用にすることは考えていない」と述べるなどしていたこと、全員にライフ社からの給与資料を提出させていたこと等からシグマテックは、近い将来労働契約関係が成立する現実的かつ具体的可能性があると判断した。

イ、不当労働行為意思

 その上で、労組法7条1号本文の不利益取扱の規定には、採用拒否の類型が示されていないから不当労働行為の成立する余地がないとするシグマテックの主張を「労働組合の団結権を保障するとした労組法が組合員であるが故に採用を拒否する行為を保護の対象外においたとする解釈は妥当ではない」と明確に退け、採用拒否について原則労組法7条にいう不利益取扱に含まれないとの判断を示したJR北海道事件最高裁判決も「特段の事情がある場合は採用拒否が不利益取扱にあたるとしており」本件が特段の事情に当たる場合に該当するとして最高裁判断を否定しないもののこれを乗り越えた判断を示した。

ウ、不利益取扱の不当労働行為

 シグマテックは、採用の自由を盾に、組合員らを採用しなかった理由を全く示さない態度に終始した。シグマテックのこうした対応を労働委員会は厳しく批判した。命令は、従業員の手術の情報まで伝えられていたこと等から「シグマテックと東リの間で、ライフ社の全従業員が採用されることを前提として細部にわたる連絡や要望があったことが認められる上、組合員らが申込み見なし制度の承諾書を東リに送付したことや、東リに兵庫労働局の立ち入り調査があったことなど、シグマテックにとって重要と考えられる採用候補の従業員に関する情報も、当然に東リから伝えられていたと推認することができる」としてシグマテックが組合員らの情報を得ていたことを認定した、その上で、シグマテックが「客観的な採用基準を頑強に開示しなかった」態度からすると「組合員であることを理由として採用拒否したという真の理由を隠蔽する姿勢があったと見られても仕方がないところである」としてシグマテックの対応を厳しく批判して不利益取扱の不当労働行為を認定した。

エ、救済方法

 救済命令は、シグマテックに対し、組合員らに対して行った「不採用はなかったものとして取り扱い、2017年3月20日の面接時に提示した条件で、同年4月1日付けで組合員らを雇用し、同日に伊丹工場の巾木工程及び化成品工程に派遣した者と同様の契約更新をするという救済を行うことが適切である」とした。

 2017年4月1日に溯って、非組合員らと同様に扱えということは、工場から排除された組合員らの地位の回復をはかることで救済をせよというものである。仕事を失った組合員の切実な要求である職場復帰による救済を命じたのである。このように組合員の窮状を救済する実効性のある措置を命じたことは、兵庫県労働委員会の見識を示したもので高く評価できる。

(2)派遣先東リの使用者性の否定

 今回の命令で残念な点は、東リの使用者性をいとも簡単に否定したことである。

 東リは終始、適法な請負であったとして、命令は実態に即した組合の主張を事実認定レベルで十分に検討することなく、労組法7条の使用者性をあっさりと否定した。さらに派遣法40条の6という派遣先との契約関係成立のためのみなし制度の判断を、裁判所による終局判断に委ねるべきとして労働委員会としての判断を回避した。労働委員会としては職場復帰までの判断で足りるとしたのであろうが、法適用を受けるまで労働組合が派遣先と交渉することすら判断が出来ないとすることは労働組合の団体交渉権を保護助成する労組法の目的に照らして適切とはいえないであろう。シグマテックに対する判断と対比する時、不十分と言わざるを得ない。

(3)ポストノーチスを命じず

 命令は、シグマテックによる謝罪文の手交すら認めなかった。この点は不可解である。職場復帰を命じることで十分との判断があるのだろうか?労働組合の保護助成の趣旨からは疑問である。

3 命令を生かした行動の開始

 組合は、東リに対する命令については不服であるとして中労委の判断を求めることにした。シグマテックは雇用を喪失した組合員らの救済をはかるべく、命令にしたがった措置をとるべきであり、労働組合として命令を実現するべく交渉を開始している。

 東リとの間では、派遣法40条の6の直接雇用みなし規定の適用を求める裁判が神戸地裁で係属中であり、来る7月と8月に証人尋問が予定されている。

 派遣法40条の6という偽装請負労働者を救済する制度が実効性あるものとするための裁判所の判断が待たれるが、労働組合が交渉によってこうした権利を実現できるよう助成することも労働委員会の役割であるはずだ。東リに対する中労委での闘いは労働組合法の価値を実現するための新たな課題を提起するものとなるだろう。        以上


裁判報告集会


2019年5月16日木曜日

職場復帰命令を勝ち取る!

 4月25日付で兵庫県労働委員会から不当労働行為救済申立の命令が出ました。
 2017年3月末、L.I.A労働組合の組合員5名は東リの職場から排除されました。それは東リの長年に渡る偽装請負を告発し、派遣法の「労働契約申込みみなし制度」に基づいて、労働契約承諾通知を東リに送付した直後、その報復として行われたのです。そのやり口は元々組合員5人が働いていた請負会社(有)ライフイズアートから派遣会社シグマテックに東リの業務が引き継がれる際に、適正な採用行為を装って組合員5名だけを不採用としたことでした。それは東リが背後で手を回していることに疑いの余地はありません。そこでL.I.A労組の組合員5名は同年6月、職場復帰を求めて、東リとシグマテックに対し、兵庫県労働委員会へ不当労働行為救済申立を行いました。それから約2年が経ち、ようやく命令を勝ち取ることができました。

<申立内容>
・東リは使用者として団体交渉を拒否してはならない。
・シグマテックは組合員5人が、東リと労働契約が締結されるまでの間、東リ伊丹
 工場で就労させなければならない。
・シグマテックは使用者として団体交渉を拒否してはならない。

シグマテックが組合員5名だけを不採用にしたのは不当労働行為と認定!
<命令>
・2017年3月20日の面談で示した条件で、同年4月1日付で雇用すること
・東リ伊丹工場の巾木工程、化成品工程で就労させること
・同工程で就労する他の派遣者と同じ契約更新をすること

シグマテックへの命令は、L.I.A労組にとって完全勝利です!

 東リの団体交渉拒否については不当労働行為と認定されませんでしたが、命令書では「シグマテックの不当労働行為は東リの意向を慮ったことに起因すると推認される」と言及しています。労働委員会は最終的に、東リへの判断を回避し、現在同時進行中の裁判によって解決が図られるべきとしています。本当の責任は東リにあるのです。東リに責任を取らせるために、また東リについての不当な命令を覆すために、私達は闘い続けます。

中之島メーデー


憲法集会東リいたみホール

2019年5月2日木曜日

東リ伊丹工場へ裁判所が視察

 4月25日神戸地裁の裁判官が東リ伊丹工場に出向き、原告たちが就労していた巾木工程、化成品工程を視察しました。主な目的は現場では実際にどうのような形で作業が行われているか知ることです。神戸地裁からは裁判官と書記官の4名、原告からは当該3名、そして代理人の村田弁護士、大西弁護士、安原弁護士が参加しました。東リのN前工場長の案内に従い工場内を回りましたが、東リにとって都合の悪いところ(事務所など)はルートから外され、営業秘密を理由に現場の写真撮影も禁止されました。写真撮影については、原告にとっては重要な証拠になることも考えられるので、4月17日に神戸地裁で開かれた事前協議で、写真撮影を強く求めましたが、裁判所も任意で提出を求めることしかできないため、「裁判所または原告が必要と考えたところは、後日原告が任意で写真の提出を検討する。」という曖昧な文言を残したに留まりました。しかも5枚程度という限定付きです。視察の日はどういうわけか、巾木工場内にある正社員が作業をしているプリント巾木工程の稼働が止められていて、工場内で混在を示すようなものは片付けられていました。そのほか巾木工程内の掲示板には掲示物が1枚もなく、全て撤去されていました。また機械等に設置されているはずの作業手順書等も隠されていました。しかし全てが完璧に隠せるはずもなく、正社員の他工程と混在を示す部分も残っており、また現場の様子も視察によって確認されているため、隠している部分も通常は混在があるということを裁判で主張しやすくなります。

 N前工場長の説明を聞きながら指定されたルートを回って行きましたが、主任裁判官は巾木工程で、自ら「リップはどれですか?」と、巾木製造中の金型リップのところに行き、N前工場長にリップとはどのようなものかと詳しく説明を求めていました。さらに主任裁判官は「リップ会議というのをやってるんですね。」とN前工場長に質問していました。原告が偽装請負の証拠としている、東リが請負従業員を集めて月に1回開いていた会議のことです。但し東リはライフイズアート社が開いていた会議に呼ばれて出ていた(全く事実ではない)と主張しています。いずれにせよこの部分は裁判の中で偽装請負の判断として大きな要素になるかもしれません。
 視察は巾木工程から化成品工程を順番に回りましたが、工場内は粉塵が舞い、かなり汚れていたので、裁判官、弁護士のスーツには所々汚れが付いてしまいました。皆、マスクとヘルメットを着用し、足元に気をつけながら、N前工場長の説明に耳を傾けていました。しかしおかしな事にN前工場長が現役の工場長だった頃は、巾木工程、化成品工程共に請負会社に業務を任せていたはずなのに、全てを詳細にまで把握してることに矛盾を感じざるを得ませんでした。

 工場視察が終わった後、4月から新たに着任した泉裁判長(元弁護士、大阪弁護士会出身)が「有意義な視察だった」と感想を述べられました。書面だけでは伝わらなかったことが、この視察で裁判官、原告代理人も作業についてよく理解できたと満足気でした。
 視察後の協議では次回期日の予定について話し合われました。原告から証人として求めている東リの巾木工程担当スタッフT氏については、被告東リは上申書の通り、証人として出廷はさせない、N前工場長だけで充分であるという主張を崩しませんでした。最後に裁判長は、次回期日はこの視察を踏まえて主張を整理する必要があり、証人を決めるところまでは難しいという見解を示されました。

中之島メーデー