最高裁判所は、東リ伊丹工場において偽装請負状態で就労していた労働者らと同社との間の労働契約関係を認めた大阪高等裁判所判決に関して、本年6月7日付で東リ株式会社の上告を棄却しかつ上告審として受理しない旨を決定した。同日をもって大阪高等裁判所判決は確定した。
1 事案の概要
東リ株式会社(以下「東リ」)は、その伊丹工場(兵庫県伊丹市)において、主力製品である巾木(床と壁の繋ぎ目に使用される建材)を製造する巾木工程と、接着剤を製造する化成品工程で、1990年代後半頃から原告ら労働者を偽装請負で就労させてきた。
2015年夏に原告ら労働者は労働組合を結成し、2017年3月、組合員のうち執行部を中心に一部有志(原告ら)が先行して労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」)第40条の6(直接雇用の申込みみなし規定)に基づく承諾通知を東リに送付し、同社に対して直接雇用に関する団体交渉を申し入れた。
2017年3月、東リは、当時同社に原告ら労働者を供給していた偽装請負会社に見切りをつけ新しく用意した派遣会社(株式会社シグマテック。以下「新派遣会社」)に原告ら労働者の雇用を引き継がせる手続き中であった。
この移籍の過程で、新派遣会社が組合員だけを採用拒否するという事件が起きた。3月下旬、新派遣会社から各労働者に最終的な採用通知が送られる直前に、東リへ承諾通知を送った組合の中心メンバー5名を残して、16名いた組合員のうち11名が一斉に脱退した。そして、もともとの非組合員及び組合脱退者は全員が新派遣会社から採用通知を受ける一方、組合に残った5名は全員が不採用通知を受けた。かくして、偽装請負という不正義を糺すため行動をした原告ら5名は、その故をもって2017年3月末に東リ伊丹工場から放逐されたのである。
2 神戸地方裁判所(裁判官泉薫・横田昌紀・今城智徳)の不当判決
原告らは、2017年11月21日、東リに対し派遣法第40条の6に基づく地位確認等を請求する訴訟を神戸地方裁判所(以下「神戸地裁」)に提起した。
しかし神戸地裁第6民事部は、2020年3月13日、原告らの就労実態は偽装請負ではなかったなどとして請求棄却の不当判決を言い渡した。
3 大阪高等裁判所(裁判官清水響・川畑正文・佐々木愛彦)の判決
大阪高等裁判所(以下「大阪高裁)第2民事部は、一審神戸地裁の誤りを正して一審判決を取消しすべての原告について東リとの労働契約関係を認めた。その判断は、
① 偽装請負に該当するか否かの判断にあたっては、労働者派遣が労務提供を目的とした契約でなく請負事業者して独立性専門性を備えているといえるかという点を厳格に判断し、厚労省が作成した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)を参照して判断し、東リが、日常的かつ継続的に、原告らに対し、伊丹工場の他工程の従業員らと同様に指示や労働時間の管理等をする偽装請負をおこなっていたと認定した。
② また、派遣先に派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的があったか否かの判断にあたっては、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」という基準を示し、主観的要件(派遣先の「派遣法等の規定~を免れる目的」)は客観的事情から認定されることを示した。
大阪高裁の判断は、違法派遣、とりわけ労働者派遣の実態があるにも拘らず請負その他労働者派遣以外の名目で就労をさせて雇用責任を潜脱する事業者の責任を見逃さず、派遣法第40条の6の趣旨である労働者の雇用の安定を保障する積極的なものであった。
4 確定をうけて
大阪高裁判決から7ヶ月で最高裁判所が上告棄却、上告審として不受理を決定し判決を確定させたことは、不安定な立場で5年にもわたる裁判を余儀なくされた労働者らの雇用の安定に資するものであり、この決定を歓迎する。
東リは判決確定を真摯に受け止め、一刻も早く原告らを就労場所に戻し、正社員と同等の条件で就労させるべきである。
また、最高裁が支持した大阪高裁判決の示した判断を踏まえ、偽装請負・違法派遣の認定・指導に極めて消極的な立場をとってきた行政(労働局等)はその姿勢を改めて労働者を救済する措置を講じることを強く求める。
以上
2022年6月14日
東リ偽装請負事件原告団・弁護団
東リの偽装請負を告発し直接雇用を求めるL.I.A労組を勝たせる会
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