2020年2月19日水曜日

3・13 東リ伊丹工場偽装請負事件 判決目前!


 3月13日、東リ偽装請負事件の判決が出ます。この判決は201510月1日施行の改正労働者派遣法40条の6『労働契約申込みみなし制度』にかかる、全国初の司法判断になります。この結果は非正規労働者にとって大きな意味を持つものです。この裁判を、労働法学者の脇田滋先生も注目しています。以下の文は、脇田先生から寄稿して頂きました。



                 寄稿  脇田 滋 龍谷大学名誉教授

・労働法令を守ることは企業が負う当然の責任
 労働法は、働く労働者を保護する法律です。憲法が定める労働権・労働条件(27)、団結権(28)に基づいて、弱い立場の労働者の保護を目的に、多くの労働法令や社会保障の法律が定められています。政府・自治体だけでなく民間企業も、「経営上、大きな負担となる」という理由で、労働法令を守らないことはできません。

・「偽装請負」利用というブラックな「脱法行為」
 法令が定める責任・負担を逃れる目的で、労働法を守らない労務対策が出てきました。その一つが「偽装請負」です。社員として雇用せず、「名ばかりの請負業者」に雇用させて、その従業員を受け入れて働かせる方式です。実際に指揮命令し、生産工程に組み込んで社員と同様に働かせる企業が、法令所定の使用者責任を負わない脱法行為です。解雇責任や均等待遇の義務も、「偽装請負」を利用すれば「所属企業が違う」という口実で、企業が容易に責任逃れできてしまいます。
 日本の労働法は、第2次大戦後、「偽装請負」を厳しく禁止しました。労働基準法第6条は「中間搾取」を禁止し、職業安定法第44条は「偽装請負」自体を「労働者供給事業」という違法行為と定め、罰則をもって禁止したのです。

・例外としての「労働者派遣」と違法派遣への規制
 ただ、1985年労働者派遣法は、「許可」要件などを定めて「偽装請負」の一部に限って適法化しました。その後の法改正で対象業務が広がり、2004年からは製造業務も派遣対象業務になりました。しかし、あくまでも「派遣」は例外で、「無許可派遣」は許されません。また派遣法は、派遣先にも一定の使用者責任を定めました。そこで企業の中には派遣法も逃れるために「偽装請負」を利用する脱法行為が続いたのです。
 2000年代に入って「偽装請負」の弊害が大きく注目されました。08年「派遣切り」が問題になり、12年派遣法改正で、「偽装請負(違法派遣)」を利用した派遣先には、派遣労働者を直接雇用する義務が定められました(15年改正を経て、現在は「派遣法40条の6」の規定)

・派遣法40条の6をめぐる初めての裁判
 偽装請負をめぐる先行事例(パナソニックPDP事件)は、派遣法40条の6の規定ができる前でした。09年の最高裁判決は、新規定に基づく判断ではありません。東リ・偽装請負事件では、「偽装請負」で働かされていた労働者が、派遣法406に基づいて派遣先に直接雇用を求めています。40条の6という派遣法の新規定が争点となる最初の裁判です。

・「偽装」を許さず、実態に基づく判断を
 国際労働機関(ILO)は、すべての労働者の「人間らしい働き方(Decent Work)」を各国に求めていますが、契約形式を利用した「偽装的な労働関係」の撤廃を求めています。EU諸国や韓国の裁判所は、実態に基づいて判断して、実際に労働者を使う企業の使用者責任を重視しています。最近になって、日本でも「非正規雇用改革」が進められ、派遣先の雇用責任強化と均等待遇義務導入の法改正があったことは重要です。
 裁判所は、国内外の労働法の新動向を踏まえつつ、「就労の実態を重視する」労働法の趣旨に基づいて、公正な判断を下すことが求められています。


判決:3月13()1310分 神戸地裁204号法廷